映画「ラーゲリより愛を込めて」を鑑賞して

2022.12.14

MYZ(AYSA西部部会会員)

「ラーゲリより愛を込めて」映画公式サイトより

 久し振りに落涙した。原作「辺見じゅん」著のノンフィクション「収容所(ラーゲリ)から来た遺書」1989年「文藝春秋」刊の映画化である。この作品は、終戦直後、日ソ中立条約をソ連が破って北から日本軍を攻めてきたことで、主人公の家族が離れ離れになったところから始まる。その妻と子供達は日本へ帰還するが、主人公は、スパイ容疑でシベリアの強制収容所(ラーゲリ)へと抑留される。この映画の主人公「山本幡男」は、実在の人物である。監督は、瀬々敬久、最近は、「糸」や「とんび」の人間ドラマで腕を振るっている。
 主人公の山本幡男役を「嵐」のメンバー二宮和也が演じている。彼の演技は、まさにアメイジング、ここまで演技力があるとは予想もしていなかった。私は、「嵐」の事は、NHK大晦日の紅白歌合戦で司会をし、その中で、櫻井翔、松本潤(来年のNHK大河ドラマ「どうする家康」で家康を演じる)、相葉雅紀ぐらいしか知らなかった。
 強制収容所での生活は、過酷を極めていた。演じる二宮は、流暢にロシア語(主人公はロシア語を専門にしていた)を使い、ロシア兵上官との交渉、その極限状況でも「ダモイ」(帰国)、「生きる希望を捨ててはいけません」と、収容所の仲間同士で生き抜くことができる「こと」を教える。ハーモニカ、歌(オーマイダーリン)、草野球、将棋、だったり。中でも、子犬「クロ」の癒し、成長した「クロ」の名演。そして主人公の魂を宿した「クロ」が氷上を走って仲間を追いかけるシーンは、涙である。南極物語の「ジロウ」を思い出す。
 その過酷な収容所の生活が8年経過、やっと手紙のやり取りが許された。主人公は、早速、妻(演者:北川景子)あてに葉書をしたためその返事を待つ。妻は届いた葉書をみて「お父さんは生きている!」と、家族で感涙。その後、日本からの検閲を得た2回目の郵便でやっと主人公宛の葉書が届く。母の元気な様子や子供(男の子が3人、女の子が1人)たちの成長が記してある。妻、子供達にそして母に「早く会いたい!」必死に涙を抑えながら、楽しかった家族の生活に思いを馳せる。このころから「ダモイ」が始まる。しかし、主人公は、更なる収容所の生活が待ち受けていた。ここで、彼は病魔に襲われる。「のどのがん」である。大病院への診察を要求する仲間達の労働ストライキ、最後は、許された大病院で死期を迎える。仲間たちは、彼に「未来ノート」を渡し、そこに、家族あての「遺書」を書かせる。しかし、彼の魂を残したこのノートは、11年後の帰国時に没収されることになる。でも、彼を慕う仲間たちの驚くべき方法により厳しいソ連の監視をかいくぐってその遺書は遺族に届けられた。それは、どのような方法なのか?是非、この映画をご覧いただきたい。誰もが「涙」する。脇役も素晴らしい。極限状況でも、家族や故郷への思いを持ち続けた一人一人の人間の尊厳が描かれている。人間の尊厳とは何か?また、主題歌「SORANJI」 by「MRS.GREEN APPLE」は、映像の最後に流れる。余韻を残すため、ここにもってきたのだろう。目頭を軽くふいて劇場を後にした。二宮が、「戦争って醜いものですね」と話したそうである。今も続く、ウクライナとロシアの戦争、そして日本の防衛費予算の倍増。又、歴史は繰返すのか、私達は試させられている気がしてならない。(完)

映画「ラーゲリより愛を込めて」を鑑賞して」への3件のフィードバック

  1. myz 投稿者返信

    HYSさんのコメントを拝読。シベリア抑留から帰られた方が身内におられるとか。往時は未だ幼い私達の世代、その時代はセピア色だったのでしょうね。抑留生活の過酷さは、ご本人にとっても中々語り出せない程、厳しいものだったことなのでしょう。でも、その方々の多くの犠牲が、現在の私たちの豊かさをもたらしてくれている。多くを語らない、でも知ってほしい。聞いて欲しい。何かを残したい。そんな葛藤と闘いながら、HYSさんの大叔父も旅立たれたのでしょう。(MYZ)

  2. hys 返信

    シベリア抑留から帰られた方が、我が身内にも居られる。
    郷里の駅に着かれ、それから自宅に向かわれる途中、我が集落の入り口で我が祖母を含む多くの親戚、近所の人が出迎えた。 黒山の人垣だけを、ぼんやりと覚えている。
    私自身がその光景を記憶していることから昭和23~25年であったろうと思う。
    当時の生活は、物があふれている現在と比べ格段に厳しかったであろうが、幼児の私は、直前に戦争があったという認識や知識が無かった。 セピア色の、あの時の光景が、日本が辿った歴史の一コマであったのであろう。
    父の死後は、家の代表の立場で、冠婚葬祭では何度もご一緒させて頂いたが、ご本人からシベリア抑留の詳細を具体的に聞いた記憶が無い。 その大叔父も既に他界されている。

  3. knk 返信

    投稿と関係ない話ですみません。

    私は少し前に購入した「毎日を楽しめる人の考え方」という本の拾い読みを始めた所です。結構厚い本です。

    著者の樺沢紫苑さんは精神科医で作家、映画評論家です。元々は映画の趣味から精神医学に進まれたらしいです。
    多才なご自身の生活・経験から生まれた内容でもあるのでしょう。

    AYSA会員の方は毎日の時間を有効に使っておられる方が多い印象ですが、私は全くこういった面が不足しています。

    会社員が仕事帰りにスマホでSNSを見たりする事は嫌な過去を繰り返し固定化する事。精神医学的には良くないらしいです。

    私は映画やスポーツ、旅行、読書(仕事関係や実用書は除く)などは若い頃から殆どしてきませんでした。これでは良くないと、この本を見つけ購入しました。
    私の現在の様々なストレスの解決の糸口になるかも知れません。

    皆さんもご興味を持たれたら一読いかがですか。かなり売れている本らしいですよ。

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