宇部市高校生などを対象とした「こころの語り場」(1)結果報告

2024-10-13(AYSA西部部会会員 USI)

令和6年度第1回「こころの語り場」が開催されました

こころの語り場

 うべ環境コミュニティーでは、「こころ」に関連するテーマについて、多様な年代、価値観、背景を持つ参加者が本音で語り合い、心理学を主要なテーマとするエッセーをじっくり考える「こころの語り場」を開催しました。

 その目的は、若い人たち、特に心理学に興味を持つ若者たちが意見を述べ合って、それに対してシニア層を含む年長者も経験に基づく意見を述べ、それぞれの参加者が勇気を持って前向きに生きていく気持ちが強くなることを目指しました。

開催日時場所および参加者内訳は以下の通りです。

  • 令和6年10月5日(土) 13:30~16:15
  • 宇部フロンティア大学 臨床心理学実習室
  • 参加者は、高校生3名、大学生・大学院生5名、現役の一般市民4名、シニア層4名、大学関係者4名で合計20名でした。
  • 本イベントのコーディネーターは薄井洋基(神戸大学名誉教授。宇部環境コミュニティー理事)と宇部フロンティア大学三島瑞穂准教授)が担当しました。

 当日の会場では、意見交換を活発に行うために参加者を3グループに分け、それぞれのグループに高校生・大学生・一般参加者がよくミックスするように配置しました。また前半と後半の二回で異なるエッセーの読み合わせができるようにファシリテーターとサポーター以外は別グループに移動するよう配慮しました。

 読み合わせの資料として、河合隼雄著「心の処方箋」新潮文庫(2004)の中から4つのエッセーを選定して参加者に配布し、その中から各グループとも2つのエッセーを選んでもらいましだ。最初に各パラグラフを参加者が音読し、続いて内容に関する自由討論を行いました。

以下はそれぞれのエッセーに対する参加者の意見と、意見交換の記録の抜粋です。

「100 点以外はダメなときがある」

  • 最初の印象では、「100 点でないとダメと言うと苦しい気持ちになった。でも100 点にこだわる必要はないと考える、誰にとっての100 点かで、捉え方は変わった。 
  • ときどき100 点を取る、というので良いと思うと楽になる。 
  • 他者評価で100 点を求めると辛いが、自己評価で100 点であればOK 
  • 更に話しが展開して、悪いことをしてしまった子どもを全力で叱るとは、どうすればいいんだろうか。また、親によって叱る以外にも、「全力で」対応する方法はたくさんある、などの意見があった。 
  • 仕事についていた時、いつも100 点を目指してやりすぎて、気分的余裕がなく、やりたいことができなかった。これではいけないと思って、フロンティア大学の大学院に入った。このテーマの問題提起の意味は理解できる。 
  • 期待に応えられるように努力し、結果が求められている。(おそらくこれが一般的な高校生の感覚なのだろうと推察される) 
  • 社会人として働いているが、仕事はきっちりとこなしている。しかし、仕事以外での余裕ある生活をどうすべきか悩んでいる。自分はこれまでの人生経験は少ないが、それでもストレスがたまって仕方がない。(←余裕を持った人、即ち悠揚迫らぬひとになって欲しい :シニアからの助言) 
  • 受験がストレス、準備が大変(←人事を尽くして天命を待つ。これ以外にないのではないですか :シニアからの助言) 
  • 勝負はオール オア ナッシングですから、心ならずも望んでいなかった方向に進むことがあるかもしれない。そんな時には「小さく産んで大きく育てよう」という言葉を思い起こしてください。その人の努力で進んでいく道にはきっと大きく育つものがあるはずです。 

「灯を消す方がよく見えることがある」 

  • 子どもと親の関係について、多くの意見が出た。息子と父親の関係はどこの家庭でも問題を抱えている。子どもとの対峙をどう乗り切るのか、父親としての態度を揺るぎない姿勢でやってきたが、それが良かったのかどうかはよく分からない。でも子どもが成長した今では何とか良い関係を保っている。(←複数のシニアの意見) 
  • 娘から見た母親との関係について ; よく子どもを理解して、苦しいときにも支えてくれたことに大変感謝している。 
  • こころが辛くて暗闇だと思っていても、よく見てみると光が見えていると言うことは、希望になると感じた。
  • 灯を消すと言うことは、聴こえてくる外側から内側への意識、なのかなと思う。

「心の新鉱脈を掘り当てよう」

  • 父親から、お前は優しいから人に好かれるだろうと、言われて、それが気になっていて、つい人に言いたいこと(本音)が言えないことが多かった。いうべきことが言えて100点になる。そのためには心のエネルギーが要る。 
  • 若い時にノイローゼ(うつ)になったことがあって、克服するために思いきって、外に出てみた。それによって、徐々に回復することができ、克服して29の時に病院の受付に勤めることができた。他の人に目を向けることができるようになりエネルギーをもらえることができるようになった。後ろから押してあげるのが大事ということもわかってきた。 
  • 著者の言われることはよく理解できる。最近の若者は、新鉱脈を探すのに必要な好奇心やチャレンジ精神に欠ける人が多い。これは教育の方法によるのではないか。 
  • 気持ちが前向きにプラスになれば、時間を使っても効率が上がる。仕事にエネルギーを使いすぎて、一見無駄なことに時間を使えない。思い切って仕事をやめ大学院に入って、新しい鉱山を見つける余裕もできた。 
  • 自分は体育祭をあえてさぼって、家族で種子島に旅行して、宇宙船打ち上げ基地を見学した。そこで得ることが多く感じた。エネルギーは一つだけではない。 
  • つながりが大切。趣味はプラス思考にする。趣味と勉強(仕事)のバランスが大切だと思う。 

「心の支えがたましいの重荷になる」

たましいにとって良い「心の支え」とは何だろうか、ということを主題にして話しあった。 

  • 周りに支えられていることを思い出すと、力が湧いてくる。 
  • 運動をする、からだを鍛えることで、ふんばりが効く。 

エッセーにあった「運」というキーワードも話題になった。 

  • 心の支えにしていたものを軽視すると「運」を失うことにつながる。 
  • 「運」は周りに思いやりや良いことを重ねることで、引き寄せることができる。 
  • そう考えると、自分の行動で「たましい」を守ることや、適切な「心の支え」を得ることができる。 
  • 「心の支え」だと思っていたものに縛られて辛くなり、それを手放す勇気をもったときに、本来の「たましい」を大事にする結果につながったという体験談もいただいた。
    ※個人的なお話しなので、具体的には控えます。  

コーディネーターによる総括コメント

 各グル-プとも、予想外に広い視点からの意見が多かったと思います。参加者からは、いろんな経験を踏まえた意見が聞けて良かったといった感想もありました。同じ文章を読んでも、一人一人随分とらえ方が違うものだということを実感しました。 
 このような機会に「立ち止まって考える、肯定的に考える」と言ったことが大切だ」という意見も全体としての気付きだったと思います。 
 著者が言わんとする本質に迫って行くには、多くの参加者が短時間に自由に発言する場ではなかなか難しいものです。少人数で徹底的に議論すれば、それはそれで良い語り場となると思うのですが、それではこの会の趣旨と違った方向に向かうのではないかと危惧されます。それぞれの参加者の意見や体験を統合して、そこから一段と高い視点での考えを纏めて発信していくというアクションが必要と感じました。当日、この会の趣旨として冒頭にお話しした「創発」を生み出し、参加者へフィードバックして行きたいと考えています。」 

今回の取り組みの自己評価

 語り場終了後に参加者と意見交換を行い、次のような意見をいただきました。 

①「今日の企画は従来の講演会形式の会と比べると面白かった。
②第2回目を開催するのなら、参加したい。
③読み合わせ資料として提案されたエッセーの内容は良かった。 

 これは単純に「語り場」の企画の斬新性だけによるのではなく、「こころの語り場」として各参加者がこころの内面を見つめ直す良い機会になったと感じたからだと思います。その意味では、「こころの語り場」の目指した当初目標の一部は達成されたと評価できると考えます。 

 ただし、徹底的な意見交換・議論の場としては、①時間制限、②問題設定の方法、③ポストイットに意見を書いてホワイトボードに貼り付ける方式をもっと意見の集約に役立つように工夫する必要がある、などの改良点があるように感じました。 

 参加者の年齢層のバランスは適切であったと考えられるが、欲を言えば高校生の参加者数がもっと増えて欲しかった。開催日の設定・高校生への広報など、改良すべき点があると思います。 

今後の展開について

 今回の第1回「こころの語り場」の実施結果を踏まえて、上記の自己評価結果をベースにして第2回を企画したいと考えています。 

 「こころの語り場」は参加者に自分を見つめて、自分の生きていく方向性を確認して勇気を得る上で効果があります。人それぞれにこれまでの人生の悩みやトラウマがあるもので、これらを解決するための端緒となるような「語り場」を目指していきたいと考えています。 

謝辞:会場提供など多大のご協力をいただいた宇部フロンティア大学様に深謝いたします。また、後援・協賛をいただいた宇部市境域委員会とAYSA(NPO山口県アクティブシニア協会西部部会)に謝意を表します。 

(USI)

宇部市高校生などを対象とした「こころの語り場」(1)結果報告」への1件のフィードバック

  1. myz 返信

    USIさんへ 改めて「こころの語り場」の結果報告書を拝読いたしました。私も参加させていただき数日前の事を懐古しています。私は1回目は「100点以外はダメな時がある」、2回目は「心の新鉱脈を掘り当てよう」で皆さんの思いをお聞きし、私の考えを述べさせていただいた。ちなみに、1,2回とも私の隣に高校3年生の男の子T君が同席してくれていました。1回目で彼の発言は「中間試験は短期と受験勉強の長期とではその100点以外でダメな時がある受け取る意味が違うと思う」と、2回目の時は「他の行事に参加せず、種子島の宇宙センターに見学に行きそこで自分の心のエネルギー(新鉱脈)を発見した」とのこと。T君は高校3年生で自分の未来を常に意識して行動しているようだ。今後大阪にあるT大学に進学しAIと心理学の融合(新しい分野)を学びたいと、彼の未来に拍手を送りたい気持ちになった。自分で探した好きなことへ集中し行動に移す、そして常に100点を求めずとも人事を尽くして天命を待つ。私はこんなことを彼に話したような気がする。大学で若者と意見交換することはわたしにとって何故かとても新鮮に感じた。彼らがこれからの日本の未来を背負っていくのだ。とても”いとおしく”感じた。有難うございました。ところで、今回の感想を私のだいがくOB会のHPに投稿させていただいた。ご興味ある方は下記アドレスをクリックしてみてください。
     https://houyoukai-tokyo.exp.jp/7234/

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です